2007/11/15

企業買収のコスト

僕がBloggerでブログを書くようになったのは最近ですが、昔はMovable typeも使っていたことがあります。
しかし、新しいブログというのは新しい機能もあり、やっぱり楽しいせいか、仕事が忙しくても日々更新しようとする力が働く不思議よ。。。

引き続き、昨日のカンファレンスに関わる内容で、今日は買収時にかかるコスト面のことを書いていきたいと思います。


  • VCのコスト
シリーズAが終わっているようなスタートアップの場合、その契約書の中に1xや3x等の保証契約内容事項が記載されています。
これは何かと言うと、買収ディールがクローズした際に、投資額に対してまずは1xなり3xなりをVCに戻します、という合意内容のことです。
例えば、シリーズAで2ミリオンドルの投資があった場合は、1xの場合はそのまま2ミリオンドルを戻し、3xの場合は6ミリオンドルを先に戻す、ということになります。
(1ミリオンドル = 100万ドルです。円だと110円で1億1千万円ナリ)

さらにそれとは別に、彼らの保有するシェアの取り分もあり、そう考えるとVCに対するコストというのはやはり高めという認識を持っておいた方がいいでしょう。エクスペンスィィブー!!

ちなみに昨日の話題でも出ていたのですが、現在、1x以上を取るシリコンバレーのVCというのはもういないようです。
さすがに3xというのはエゲツないだろ、ということでバブル期以降は1xがスタンダードになっているとのこと。また、僕の会社もシリーズAに向け、いくつかの現地VCと話を進めていますが、1x以上を提示するVCはこれまでの所、存在していません。
昔は3xが割と普通だったので、以前と比べると、ここはやさしくなった部分なのかも知れません。

  • バンカーのコスト
会社を売りに行く場合は、ディールの大きさによるものの、インベストメントバンク(投資銀行)経由が多いようでした。
インベストメントバンクと聞くと、何となく100ミリオンドルを越えるような大きいディールしか手がけないのではないかというイメージがあったけど、こちらのバンカー達は大手でも50ミリオンドル前後くらいのディールから手がけるようであります。

ちなみにそれ以下の小さいディールを取り扱うのは、どちらかと言うと彼らではなく、専門エージェントの範疇になるようです。特にシリコンバレー界隈では、20~30ミリオンドルくらいのスタートアップ企業のディールも多いわけですが、これら小規模ディールに関しては、それ専門に扱うエージェント経由で買収交渉を行うことが多いとのこと。

バンカーに対するコストですが、基本的には買収額に関わらずミニマムチャージが2~3ミリオンドルで、買収成立時には全体の買収額に対して1%くらいの成功報酬チャージがあるようです。
100ミリオンドルで買収が成功したとすれば、まず2~3ミリオンドルを支払い、さらに合計額の1%にあたる1ミリオンドルを成功報酬として支払う、という流れになります。

ただ、インベストメントバンクに関しては、何をやっているのかよく分からない、外から見えにくい、何も生み出していないのに多額の中間マージンを抜きやがって!という理由から、正直嫌っている人もいるようです。
買収側も、インベストメントバンクが入ると価格の吊り上げ競争が起こってしまうので、あまりいい顔はしないらしく、彼らが存在することにHesitateする買収企業もあるようです。

これらネガティブなイメージを持つインベストメントバンク達ですが、バンカー自ら語っていた彼らの存在理由としては、

1. 戦略的に可能性のある企業の多くと話をするので、普通に交渉を行うよりも高値でまとまる
2. 既に経験を積んだ人間がやることでスムーズな交渉が可能となる
3. 経験を積んだ弁護士がいるので、その後の問題が起こりにくい

というようなことを言っていました。
買収ディールをクローズする際には、タフなネゴシエーションや煩雑なペーパーワーク、複雑な法律関係も関わるため、特にスタートアップ企業が会社を売る場合はインベストメントバンクを積極活用した方がいいよ!きっといいよ!というアピール付でしたが、専門人員のいないスタートアップ企業の場合は確かに一理ある話だと思います。

ちなみに、買収ディールについては基本的に社内で5~6人+弁護士でチームを組んで作業にあたるようで、ディールクローズまでの平均的な期間としては2ヶ月~半年くらいという話でした。

  • 弁護士のコスト
買収ディールをクローズさせるためには、必ず弁護士が必要になります。
もちろん先方にも弁護士がいるでしょうが、発生する契約関係を全て緻密にスクリーニングし、不利となる箇所は指摘してネゴしなければなりません。

これら弁護士にかかる費用というのもバカにならないのですが、ディールによって費用がかなり変動するため、コレといった数字は出てきませんでしたが、実際に弁護士に聞いた所によると、小さくてスムーズなディールで10~20万ドル前後、大きくて煩雑なディールの場合は、1ミリオンドルを越えてしまうこともあるようです。

バブル時は、それに追加して普通に2~3%のストックオプションも要求してたので、そういう時代に比べると今はまだマシかも知れません。

  • Escrow
普通、買収ディールを行う際には、契約内容に約10%で1年間期限付のEscrowを含んだ内容が提示されます。(%は企業によって変動あると思われます)
これは、買収金額の10%を買収側が1年間プールしておきますよ、何かあった場合はここから引きますよ、という内容で、何もなければ1年後に返還されるものですが、アメリカでお金持ちの大企業がスタートアップ企業を買収すると、すぐにパテント侵害訴訟であるとか、その他権利関係の訴訟が起こされるため、全然戻ってこなかった・・・(涙)という話も実際に聞くことがあります。

ちなみに、GoogleがYouTubeを買収した際は、明らかに著作権侵害訴訟が将来起こるであろうことが予想されていたため、かなりの額をEscrowされていたようです。

  • 引越しのコスト
意外な盲点かも知れませんが、社員が買収企業の本社へ勤務することが条件とされる場合もあります。
この場合、お互いが近ければしばらくの間はゴマカシつつ、オフィスの契約期間終了まで持っていくという戦法も使えるのかも知れませんが、州をまたぐような移動が必要な場合は、それまで利用していたオフィスへ契約期間の残り分を一括で支払う義務が生じる場合もあります。

仮にオフィスの賃貸料が月1万ドルであり、残りの契約期間が10ヶ月あれば、それだけで10万ドルを無意味に支出することとなります。

  • トータルのコスト
こう考えると、Acquisitionされたからといって、トータルで創業者や社員にどれくらいの分け前を与えられるかという部分が少々不明瞭となります。

仮に、1xで3ミリオンドル、シェア30%でシリーズA終了後、バンカーを入れて少々複雑なディールを50ミリオンドルでクローズした場合を仮定すると、

1. VCの1x分コスト = 3ミリオンドル
2. バンカーのミニマムコスト = 3ミリオンドル
3. Escrow = 5ミリオンドル
4. Lawyerコスト = 1ミリオンドル

その他、引越し等細々としたコストもあるでしょうが、とりあえず上記合計、12ミリオンドルがいきなり消え、残り38ミリオンドルからスタートです、ということになります。全体の24%がコストとしてここでサヨナラ。

そして次に、以下のように割り振りがされます。

1. VCやその他優先株取り分 (30%) = 11.4ミリオンドル
2. バンカーの成功報酬 (1%) = 0.38ミリオンドル
3. 創業者株, ストックオプション等の取り分 = 26.22ミリオンドル

3.のところで、やっと創業者や社員が分け前を頂戴できるいうことになるわけです。
ですので、仮に自分が2%の株を持っているからといって、「50ミリオンドルで会社が売れた!俺の取り分1ミリオンドルだ!」ということにはならない、ということを予め理解しておいた方が良いということになります。

また、こう考えると、既にシリーズAを完了させたスタートアップ企業が、仮に10ミリオンドルくらいのディールをクローズさせた所で、何か誰も儲かってなさそう・・・という感触も何となく分かると思います。
シリーズCくらいまで行ってしまうと、仮に50ミリオンくらいのディールをクローズさせた所で似たような感じかも知れません。

最後に、買収時のオプションとして現金買収の場合と株式交換の場合があります。この辺も結構面白いところなのですが、またいつか書きます。

もう寝る。

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