2007/11/28

絶妙なタイミングでサービスイン(2)

最初の頃、無尽蔵に見えたストックもそろそろ底が尽きてきました・・・公開していくの早すぎた。

さて、今日も前回に引き続き、サービスローンチにおけるタイミングの話を書いていきます。

とはいえ、一つ注意しなければならないのは、いずれにせよ的確なタイミングを読んでサービスのローンチをコントロールするということは、かなり難しいということであります。



成功したサービスのほとんどが、「いや、まだ出陣の時ではない。待たれよ!」などとは考えておらず、急いで開発して急いでローンチした結果、気がつくと良いタイミングだったね、となっていることを忘れてはなりませぬ。

ゆえに、良い市場を事前に見極めるセンスというものが、特にシリコンバレーのテック系アントレプレナーには必須のセンスだと言えるでしょうし、優秀なアントレプレナーは、ここら辺の勝負勘が普通とはちょっと違う人が多いと思います。

今日は、「競合から頭一つ抜け出したサービスを勝者決定前にローンチするタイミング」という話について。

  • KANSSLT・・・いや、KST
これは、市場が盛り上がりそうだと感じた時に、素早くその市場における競合分析を行い、新機軸を持ってその市場の勝者が決定する前にギリギリ間に合わせるような形でサービスをローンチする技のことをいいます。

長いのでそれぞれの頭文字を取って、「KANSSLT」と名付けよう。あ、これでも長い・・・。「KST」にしよう。
ちなみに、この技を使うスタートアップというのは結構多く、前回に引き続き、Skypeを例として申し訳ないのですが、Skypeはまさにその典型であったし、P2P業界やSNS業界においてもそれらを見出すことができるし、ビデオ業界においてもそれにチャレンジしているスタートアップはいくつもありました。

業界にもよりますが、基本的にWEBサービスならば1年間くらいがベータ公開までの開発期間としてざっくり考えると、その業界が少し話題となってから、半年~1年ギリギリ未満くらいにサービスをローンチしてくる会社は大体KSTといえます。

「お、これからはビデオ業界が賑わいそうだ。じゃあ今開発しているサービスの方向性をビデオメインに変更しよう!」みたいな感じで途中で方向性の転換が図られるというのが大半だと思いますが、主要機能の変更だけでも結構な工数はかかりますし、テストを含めると、半年くらいの延長は目に見えてきます。

正直言うと、これまでその市場を育ててきた焼肉選手達にとっては、あまりにムカつく参入となるわけですが、鉄板の中の肉が美味しそうに見えれば見えるほど、このような「俺の肉を育ててくれてありがとう。いただきまぁ~す」的なプレーヤーが出てきやすいということは理解しておくべきだと思います。

もちろん、そのようなプレイヤーが出てくる市場というのは魅力的でありますので、自分がExitできるポジションをしっかりと固めておきつつ、市場応援団の一人としていかに立ち振る舞いができるか、ということが重要になってくるでしょう。
プレイヤーが多くなると、市場は盛り上がり、それ専用のカンファレンスやイベントが発生してきます。そういう場所でさらに市場をアピールできれば、もちろん全てではありませんが、Exitがより近い道として見えてくるわけです。

最後になりますが、市場後追い型であるKST型の中で、これまで一番の成功を収めた企業はSkypeになります。
KST型に重要な要素は、技術的新機軸とマーケット的新機軸です。前方にいる企業を熟知し、ファーストムーバがまだ手を打っていない所を目指してこの両方を包括したブレイクスルー・サービスをひっさげることができれば、前方集団を蹴散らしてトップに躍り出ることは可能です。

VoIPクライアント市場の場合、

1. 同時多発的にスタートアップが発生
2. KST/Skypeがブレークスルー
3. 第二市場創出型スタートアップの台頭

現在の所、このような変遷を辿っており、既に3.のフェーズに入ってきています。

次回は、3.の「第二市場を創出するスタートアップ達」に焦点を当ててみます。

もう寝る。

追記:
ごめん、ひょっとしてKSTカンパニーの中で一番の成功を収めたのは、SkypeではなくGoogleだった。
Googleが登場した時、既に検索市場は混みあっていたけど、本当のブレイクスルーを持っていたのはGoogleであった。
そう考えるとファーストムーバ型よりも、市場がある程度形成されている所にブレイクスルーを持って参入するKST型の方が、大成功率が高いのかも知れない・・・リスクが少ないとも言うかな。

特にファーストムーバ達が既にそのサービスにおいて、他に手を広げ始めてしまい、競争の軸としてそこを捨てているような所(Yahooで言えば、Yahooは途中から検索を競争の軸とは考えなくなっていた)が狙い目か。
いずれにせよ、時代は繰り返しつつ前に進む・・・。


2007/11/25

絶妙なタイミングでサービスイン(1)

製品やサービスをどういうタイミングでリリースできれば、最も大きな効果を得ることができるのか。

絶妙なタイミングとは、どういうタイミングのことをいうのか。

「正しい場所に正しいタイミングで存在する」というのはどういうことなのか。

この辺はテック系スタートアップの成功のカギを握る重要な部分であります。

今日はこの辺のことを、僕の経験と感想を織り交ぜながら書いていくことにします。


ただし、一回で終わりにするにはあまりにもディープな議題であるため、何回かに分けて掘り下げて行きます。

ここ数年、シリコンバレーにおいては大企業がコンシューマサービス系のスタートアップを買収するというマーケットが加速しています。

10年くらい前はシリコンバレーといえども、コンシューマ系ソフトウェアサービスのスタートアップがどしどしと消えていった時期もありました。

当時、キラ星のごとく現れては消えていったPoint CastやmyWebOS、その他大勢の製品/サービス達が、もしも今という時代を生きていたならば、ひょっとしてすごいビジネスに育った可能性もあったのかも知れないし、逆も然りで、もしもFacebookやDigg、Twitter等、今の時代に輝いて見えるサービス達が10年前に登場していたならば、その夢は儚く散っていたのかも知れません。

全てはタイミングさ

僕の感覚では、昨今のコンシューマ系サービスの場合、ちょうどGoogleがIPOすると囁かれ始め、実際にIPOしたあたりの2003~2004年頃を分岐点として、急激に花が開いてきた感がある。(でもデータがないので何とも言えぬ)

その前までは、僕の前創業会社でも、「コンシューマ市場にスタートアップが直接リーチすることは難しい。ターゲットをエンタープライズ市場に切り替えよう」というボードミーティングが何度かあったことを覚えているし、周りを見渡してもビジネスモデルとしてコンシューマを直接ターゲットにするというのはバブル崩壊後は、あまり見かけなくなっていったのを覚えている。

時代というのは似たような移り変わりをするもので、ビジネスモデルでいえば、エンタープライズとコンシューマを行ったり来たりと繰り返すし、プラットフォームでいえばPC(クライアント)やLinux(サーバー)と携帯、その他組込み系を行ったり来たりと繰り返す。

そして、その時折において、ある組み合わせで大成功する企業が出ると、「その組み合わせで我々もやるべきだ!コア技術にサービスを乗せてコンシューマ市場に行こう!」とか、「サービスとコアを切り離し、コア部分に特化してエンタープライズ市場を切り開こう!」といったような議論が社内で沸騰し、我も我もと同じような考えを持つ他社が一箇所に参入することで、資金もそこへ集中されていき、その組み合わせの市場が盛り上がるようになってくる。

  • その時、そこにいるファーストムーバ型
一番タイミングとして良いのは、市場の盛り上がりのちょっと手前からその場所の住人となり、「あの組み合わせで我々もやるべきだ!」と、他社の市場参入を促すことのできるタイミングでサービスをリリースする、いわゆるファーストムーバ型。
うまくいくと市場の牽引係のポジションを取れるし、その市場が注目された時には真っ先に紹介されるようになる。

もちろんファーストムーバの抱えるリスクは、市場が見えてきてから参入してくる企業の比ではないし、資金調達が難航する可能性もあるけれど、うまく同じ土俵に他社を引っ張ることができれば市場は盛り上がり、当たった時の突き抜け具合も素晴らしいものがある。

例を挙げるならば、

市場とプラットフォーム:コンシューマ市場、PCプラットフォーム
製品もしくはサービス:写真共有サービス
そこにいた会社:Flickr

といった具合。

YouTubeの場合は、コンシューマ市場が認められてから少し経ってからの参入であったので、Flickrほどのリスクはなかっただろうけど、Flickrと似たような範疇に入るだろう。
彼らは、コンシューマ向けのビデオ共有サービスにおいては、最も参入が早かった。最終的にはいろんな意味でFlickrを逆転したけど、きっと当初はFlickrのビデオ版という位置付けで考えていたんだろうと思う。

ちなみにセカンドライフあたりは面白くて、今注目されているような100%コンシューマ型ではなく、ちょうどバブル崩壊後の会社だけあって、サービスの提供先がエンタープライズ向け主体。あの頃の時代というのを表現している数少ない生き残りだと感じる。(一つ付け加えると、セカンドライフはファーストムーバではない。参加者が3D世界でモノを自由に作り、それで遊ぶという歴史はもっと古い。その頃、現金取引はできなかったけど。あ、ひょっとしてそこが新しいのか?)

  • その時、そこにいる同時多発型
その時、そこにいる型としてはもう一種類ある。
ファーストムーバ型は他社よりも半歩先にサービスをリリースできた企業のことを言うけれど、実際においては、「同時多発型」が最も多いだろうと思う。

これは、その名の通り、自社がリリースするタイミングで似たようなサービスがポロポロ出ちゃった、というパターンのことを指す。そして、このパターンにハマった場合は、まだ顧客層の固まっていない時期に少数のスタートアップと最初の競争をしなければならないので、正直、「なんで同じ時期に来るんだよー!」とムカつくことこの上なし。相手も同じことを思ってるだろうけど・・・。

同時多発型の場合は、市場が花開く前に先に頭一つ抜け出していて、他社の追従を許さない形になっているのがベストだけど、同じような時期に同じようなことを考えている人というのは意外と多い。
ただし、前々回説明したように、似たような時期に似たような競合が出てくるという市場環境は、自社の考えが正解に近い素晴らしい兆候であるということも忘れずに。

僕の前創業会社を例にすると、僕達が製品発表した前後1ヶ月間だけで3社が同じような市場にエントリーしてきていたし、最終的には6~7社程の競合がひしめき合う市場となった。そして2003年になるとSkypeが登場、その後数年内に完全に勝負が決まった。ただし、Skype以外の他社も2005年頃にちゃんといくつかがExitを果たしたので、結果から見るととてもいい市場だったのだろうと思う。

ファーストムーバのみで他社が追従してこない市場というのはちょっと怖いけど、同時多発型が出る市場というのは、VoIPの時のように、その後大きく発展するパターンが多いため、このタイミングというのも決して悪くはないだろう。

ちなみに僕の前創業会社は、前に述べたように、ちょうど時代の変わり目であった流れもあり、途中でコンシューマ市場から撤退し、エンタープライズ系サーバー分野の方向へ走って行ってしまったため、そのおこぼれには預かれなかった。(個人的にはビジネスモデルがエンタープライズ系へ移行される段階で解雇となったので、その後どのように市場を形成しようとしていたかは分からないけど)

次回は、「競合から頭一つ抜け出したサービスを勝者決定前にリリースするタイミング」という話を書きます。


2007/11/23

市場と競合(後半)

前半では、ジョナサン・ジョースターに対するディオのごとく、ジョセフ・ジョースターに対するワムウやカーズのごとく、「競合の存在は大事」という話を書きました。

競合の存在ッ!!そこにシビれる!あこがれるゥ!
ジョジョの奇妙な百人一首欲しいッ!ノドから手が出るほどッ!

お前の次のセリフは、「今日は昨日の続きです」だッ!

さて、今日は昨日の続きです。

ハッ!!!



思わず一人芝居してしまいましたが、淡々と昨日の続きを書いていきます。

シリコンバレーでソフトウェア業を営んでいると、「お前んとこは、競合に対して何がどう違うのか?」ということをよく聞かれます。
雇用の際、人と何気に話をしている際、資金調達の際、実にありとあらゆる場面で、そのことを説明しなければいけない機会に恵まれます。

資金調達の下準備で、競合情報に関してや、自社の環境についてをエレベータピッチとして用意しておいた方がいいと書きましたが、特に競合の情報に関しては上記のように資金調達以外でもよく話題となる所ですので、調査・まとめをして、口頭で整然と話せるように準備をしておいた方がいいでしょう。

シリコンバレーでもこれら競合に関しての問答においては、答えに詰まる創業者や、「競合はいない」と自信満々に言い放つ経営者もいますが、その場合は、「あちゃー、何も研究してないんだね・・・」という痛い視線を浴びるのみなりますので、本当に参入一番乗りと確信できる以外は、地道にコツコツと競合情報と自社のポジションについては考えておいた方がいいと思われます。

以下、競合に関してよく問われる3つの内容です。
  1. 競合他社と比べて何がどう違うのか?優位性はどこか?
  2. 競合他社に比べてどういうマーケットポジションを取るのか?
  3. 競合他社が自社と同じようなことをやる可能性は?
これらはようするに、「なぜ競合に勝てるワケ?」という確信を導き出すための3つの質問と理解しておくといいと思います。

創業者個人も、「競合に勝てる」という確信を自分自身導き出すためにも、この3つの面をあらゆる角度から見て、矛盾がないか、シナリオとして客観的に納得できそうかどうかを考える必要があります。
1.2.3.とシナリオを作り、「だから競合に勝てるのさ」という結果を頑張って導き出してみて下さい。

また、それぞれの質問においては、答えたところで必ず「なぜ?」という質問が入りますので、ディープに考えておく必要があります。例えば、2.に関して、「ここにポジションを取ります」と答えると、「なぜそこにポジションを取るの?そこにマーケットがあるとなぜ言えるの?」ということを聞かれるといった具合です。

3.に関しては、仮に参入一番乗りで直接の競合が見当たらない環境であっても、「この程度の参入障壁ならば他社がすぐに来るのでは?」という仮想競合まで持ち出される始末です。
これに関しては、自社の持つテクニカル的バリア、もしくはその他の要素でのバリアが何なのか、ということを抑えておくことで、「簡単な参入はたぶん無理」という結論を考えておくと良いです。

以下は参考程度にして欲しいのですが、競合との差別化に関する質問に対して個人的にこれまで最も納得されやすかった答えです。

  • プラットフォームでの差別化
競合が物理的に参入不可能と思われるプラットフォームを用いて展開する。しかもそのプラットフォームは非常に魅力的。(技術的には他社でも開発可能だが、政治的にこのプラットフォームに入れるのは自社のみであるとか、このプラットフォーム上では他社のこれまでの資産が物理的に流用できないというような場合)

  • 技術的な新機軸をベースとした差別化
混沌としつつある市場だが、市場をひっくり返すほどの技術的な新機軸を持っている。新機軸の証拠らしきものもある。(コンシューマ向けVoIP市場においては過去のSkypeのような例)

  • マーケティング的な新機軸をベースとした差別化
混沌としつつある市場だが、全く異なるビジネスモデルで市場にアプローチする。または、他社が見落としているゴールドプレースにバリアを持って一番最初に参入する。

以上3つです。

個人的なこれまでの経験としては、一番上のプラットフォームによる差別化が一番ウケがよく、後の二つについては、単体ではちょっと弱く、合わせ技でウケが良かった。ただし、プラットフォームによる差別化は、なかなかできることではないと思います。
なので、それ以外で創業を考えている人は、技術的新機軸とマーケティング的新機軸の2つの合わせ技で深く考えておくことをお勧めしておきます。

この二つの合わせ技を用いた良い例がSkypeです。
Skypeがコンシューマ向けVoIPサービスをリリースした2003年のVoIPクライアント市場は、Skypeの参入前、既にスタートアップが乱立しており、混沌としていた市場でありました。(僕の前創業会社もその一つ)

彼らは、その混沌とした中で、「俺たちは、NATを優雅に越えるのさルン」という技術的新機軸と、「狙うはコンシューマ市場のみ」というマーケット的新機軸を打ちたて、市場をさらっていきました。

当時のVoIP市場においては、「SIP準拠」、「音質」、「主なマーケットは企業」といった所が競争の軸として認識されていたのですが、Skypeは、「SIP」と「エンタープライズ市場」というこれまでの機軸を捨て去り、「楽々NAT越え」、「狙うのはコンシューマ市場」という上記新機軸でまさに市場をひっくり返したわけです。
もちろん創業者が既にKaZaAで有名であったということも一つありますが、モノが悪ければいずれにせよここまで浸透はしなかったでしょう。

結果、彼らは大きな勝利を手に掴み、今なお巨大なユーザー数を誇るVoIPサービスとして君臨しています。

ただ、一つ注意しなければならないのは、技術的な新機軸を前面に出す場合、投資家に理解してもらえるかどうかというあたりです。
創業者は、当然毎日そればかり追っていますので、自社のサービスが新機軸になり得るかどうかについて、ある程度の見通しはついていると思いますが、投資家から見るとそれが本当に新機軸になるかどうか見分けるのは大変です。というか、たぶんほとんど理解してもらえません。

ですので、創業者個人もここについては単に思い込みだけではなく、できれば第三者が作成した「新機軸としての客観的な証拠」を示すことができればいいでしょう。もちろんニュースサイト等の情報でもいいと思います。
汗水たらして3時間一生懸命説明するよりも、客観的な事実を3秒突きつける方が効果はあります。

次は、「絶妙なタイミングでサービスイン」について書きたいと思います。

2007/11/22

市場と競合(前半)

今日は、市場と競合の話について書きます。

結論から言うと、シリコンバレーにおいては、「競合他社が存在しない市場」という方が問題です。

競合が存在しないということは、その市場があまりに小さく、将来的にも市場が育つ可能性の見えないものか、もしくは創業者が競合の存在を単に認めたくないという場合が多いのです。


将来的な成長が期待される業界であれば、むしろ競合が存在していて当然であり、また競合他社の存在は、自社のみではなく、競合他社と共に競争しながら市場を育てていくことができるというプロフィットもあります。
また、ライバルの存在があってこそ、相手よりもさらに良いものを開発しようという原動力も働きます。

ということで、ソフトウェア/サービス系のスタートアップがシリコンバレーで資金調達をしようと考えた場合、競合については綿密に調査しておく必要があります。

さて、ここまで競合が大事であるという話をしておいて何なんですが、「最初から参入すべきではない環境」という例もあります。

それは、
  1. 既に上位1~3社くらいで勝者が決まりつつある業界
  2. 決定的な勝者はいないが、既にピークが過ぎつつあるように見える業界
  3. 参入が多すぎて、あまりにも混みあっている業界(感覚的には10社以上)
このような状態に既に移行しているように見える、もしくは近い将来そうなりそうな業界です。

ただし、それらの環境に対して自社が、「技術面、もしくはマーケティング面から全くの新機軸を打ち出せる可能性がある」または、「ある理由により、他社が参入不可能な市場である」という場合を除きます。
自社がその例に該当しないような、「多少の差別化要因しか考えられない」または、「どう考えても他社と似たようなポジショニングになりそうだ」という場合は最初から参入を避けた方が無難です。

ちなみに1.を例に挙げるとすれば、コンシューマ型のVoIP(Skypeが天下統一中)や、同じくコンシューマ型SNS業界(日本でもアメリカでも既に確定に見える勝者がいますね)が思いつくでしょうし、他も挙げればいくつか出てくると思います。

2.について言えば僕の場合、マイケル・ロバートソン氏(Lindows、MP3.com、SIPphone、ajaxlaunch.comの創業者)が参入してくる所は既にピークであるか、ピークを過ぎつつあるというモノサシを持っています。
彼の特技は、「その時の旬である業界にキャッチーなフレーズでイエイと参入すること」なのですが、Lindows以降は常に参入タイミングを微妙に外してやってくるという、本気なのかネタなのか分からない面白さがあります。

とりあえず彼のことを「シリコンバレーのトゥナイト2」と呼ぶことにしよう。

次に、大手企業の参入についての話を。

大手の参入というのは、業種にもよりますが、特にソフトウェア系サービス業界においては、そんなに心配しなくても大丈夫だと思います。

例えば、GoogleやMicrosoftといえども、ひょっこり出てきたスタートアップに敵わないという事例がたくさんあります。
また、数年前と違って今のアメリカの大手企業達はその辺のことを十分に知っています。(日本の大手企業は今だに自分達で何でもやろうとしますが、この辺の日米企業の意識格差についてもいずれ書きたいと思います)

大手の参入時に、スタートアップがちゃんとマーケットシェアを持っている状態であれば、アメリカの大手の場合は、スタートアップに負ける可能性(わざわざイチから参入する)を選ぶよりも、シェアを持つスタートアップを買収してから入ってきますので、大手参入はむしろ喜ばしい出来事なのです。自分が当事者になれればだけどね。

また、一社大手が参入すると、それに触発されてその大手の競合達も参入しようとして一気にその市場が盛り上がることにもつながりますので、いかに大手を呼び込むかということも、本来はスタートアップ達が協力しあって検討すべき所なのかも知れません。

後半では、具体的に自社と競合について考えるべきことを書きたいと思います。

2007/11/20

エグゼクティブサマリー

今日は、資金調達の下準備で少しお話したエグゼクティブサマリーの内容について書きます。

日本でも通用する内容だと思うので、私という人柱を参考にして、皆様頑張ってみて下さいまし。



エグゼクティブサマリーとは、「ビジネスプランのあらすじを2ページくらいで見せるもの」という理解でいいと思います。

普通の人は本を買う時、本屋さんでちょろっと目次と中身を立ち読みして、面白そうだと思えば買います。エグゼクティブサマリーとは、まさにその、「目次と内容をちょろっとだけ」の部分に当たりますので、その「ちょろっと」の中に買われるようなインパクトのある情報を詰め込んでおく必要があります。

以下にエグゼクティブサマリーで必要となる内容を記していきます。

1. Mission (企業使命)

会社のミッション説明です。
この会社はどのような使命を持った会社なのか?どんな世界を目指すのか?というところを端的に説明します。

しかし絶対に抽象的にはならないように。
たまに、「インターネットを用いて世の中を便利にして社会貢献する会社です」とか訳のわからないミッションを持つ会社もいますが、意味わかんねー。

「インターネットを通じて、誰もが手軽に国際無料通話を経験できる世の中を作る」

例えば上記は、その昔VoIP会社を興したNさんの会社のミッションです。


2. Summary (会社概要)

何をしている会社なのか、という会社の簡単な概要説明。

3. Market Context (市場状況)

狙っている市場の現在状況。市場規模やトレンド、数年後の市場規模予測、市場がどういう方向に向かうのか?といったあたりの説明。

4. Solution (ソリューション)

現在の市場において、何がどのように問題で、それに対して何がソリューションとなるのか?といった自社製品の簡易説明。

5. Market Segments (市場と自社のセグメント)

競合が保有する市場シェア情報、それらの中で自社がどういうポジションを取るのかという説明。

6. Sales and Marketing Strategy (販売・マーケティング戦略)

どのようにそのソリューションを販売するのか、展開するのか、といった戦略情報を簡易説明。

7. Competitive Landscape (競合状況)

その市場の中にどんな競合プレイヤーが存在しているのか?競合は何を特徴としているのか?競合はどんなビジネス戦略を持って市場に存在しているのか?というあたりの説明。

8. Competitive Advantage (競合に対する優位性)

競合他社に対して自社のソリューションの何が優位な部分なのかを説明。

9. Milestones (マイルストーン)

いつ、何をリリースするのか?いつ、どれくらいの顧客を獲得する予定なのか?を説明。

10. Revenue Projections (5年間分くらいの収益予測)

収入、支出、差し引き利益、利益率を5年間分予測。

11. The Team (チームメンバーの略歴説明)

どんなチームで運営するのか?構成メンバー達の略歴説明。

12. Board of Advisors (アドバイザー略歴説明)

ボードディレクター、アドバイザーがいれば、その略歴説明。

さて、ざっと12ありましたが、これを2ページで収められるように(1ページで収めるのが理想)情報を書き込みます。

できあがったエグゼクティブサマリーは、できれば周りの人にも見てもらい、インパクトがあるかどうか、またおかしな所がないかどうか確認してもらった方がいいでしょう。

もう寝ると思ったけど、まだ昼なので昼ごはんにする。

2007/11/19

どうして売れるの?

日本でもアメリカでも、スタートアップが自社の技術やサービスを武器として、資金調達(投資としての)を行う場合、必ずインベスターに聞かれるフレーズが、「どうして売れるの?(どうしてユーザーがつくの?)」という部分であります。



製品やサービスを技術的な視点から見て、「これはスゴイ。きっと世を変える製品・サービスだ!」という確信を持つことは僕はとても大事なことだと思いますし、テクノロジー系スタートアップの姿勢として正しいと言えます。
よくマーケッターが、そういう言葉尻を捕まえて、「技術者は自分よがりな評価をしがちだ」というようなことを言うことがあるかも知れませんが、ワクワクするような初めの一歩のアイデアなくしてイノベーションはありえません。

ただ、一つだけ言うならば、せっかく考えたいいアイデアや製品ならば、できれば成功に近い場所に置いた方がいいということ。

そのためにはどうすればいいのか?

その答えが、「どうして売れるの?」という部分を深く考えるということなのです。

僕の経験から言えば、経験のあるインベスターならば、大半が自分用の情報収納ボックスを頭の中に持っています。そして、その箱の中にきちんとした情報を入れてもらうことができれば、ほぼ半分の確立で投資話はうまくいきます。

ほとんどの場合、その情報収納ボックスには、
  • どうして売れるの?というボックス用のラベルがあり、
  1. 現在、どのような問題点があるのか?
  2. どういうフォーカスを持つソリューションなのか?
  3. そのソリューションで誰にどういう利益があるのか?
  4. 競合他社とは何がどう違うのか?
  5. どうして競合他社に勝てるのか?
  6. どうやって顧客を確保するのか?
  7. どうやって顧客を維持するのか?

上記のラベルがフォルダ毎に貼ってあります。

もちろん本格的なビジネスプランには、上記をディープに追求する他、市場規模予測であるとか、ビジネスモデルであるとか、IPやテクニカルバリア、ロードマップ、マーケティングストラテジー等など、詳細を詰めていく必要はありますが、根本的なところとしては、投資家が最も気にする「どうして売れるのか?」という部分を自分自身でも上記の素材から考えてみると、頭の中もクリアになるはずです。

すでに顧客やユーザーを確保しているサービスならば、これらを聞かれた所で、「もう顧客いるヨーン!」と言えますが、そうでなく、これから新しい何かを始める場合は、製品やサービスのこと以外にも頭の体操の一環として、「どうして売れるの?」ということを考えておくことはきっと損にはなりませんハイ。

もう寝る。


iPhone買ったー

今更ですが、ナウなヤングにバカウケ中のiPhoneを買いました。

この辺に住んでるギーク達は発売日とかに並んで買っていたようですが、発売当初のiPhoneは確かに超人気で一瞬店頭から消えたものの、その後余剰在庫ができてきて、とうとう200ドルOFFになった所でヤホーイと購入。

開けてみて鼻息ムフー!


いや、これスゲー。
何がスゴイかって、何かよくわかんないけどスゲー。捨てちゃったけどオサレな小箱とかスゲー。
Wi-Fiとデータ通信(EDGE)が勝手に切り替わってくれる所やらデータ通信費用が無制限・・・・スゲー。
IMAPも最初から同梱。いやこれホント便利。

ところでですね、これってバッテリーどこにあるのでしょうか?太陽電池?

あと、iTunesを入れたら、勝手に秘蔵のエロビデオとか同期されてしまい、一瞬慌てました。いや、それはたぶん持ち歩かない。いや・・・でもでも女の子に対してiPhone自慢している時に間違ってエロ再生というのもなかなかセクシュアルハラスゥメントとでに。(意味わからない)

そんなこんなでいろいろいじってる途中ですが、Treo650あたりに比べると、インターフェースはかなり使いやすい。
何が使いやすいかって、それぞれのサービスを動かすのにイチから学ぶことが少ない。Treo650あたりだと、「これをするにはどうやって操作するわけ?」というのが今振り返ると多すぎる。

この、「何となく分かる」というのは、Appleが過去の財産を究極利用しているという証でもあると思いますが、インターフェースを作る上においては、エロビデオの同期以上に重要なことなのだと再認識した次第でエロます。

11月20日追記:
iPhone面白いワーイとオモてたら今日アスファルト上に落とした。もう寝る。


2007/11/16

資金調達の下準備

今日も軽く書いていこうと思います。

シリコンバレーで現地VCから資金調達をする場合、どんな下準備が必要なのでしょうか?
資金調達の成功については正確な解はないと思いますが、資金調達の下準備については以下の3つが挙げられます。


  • Executive Summary
エグゼクティブサマリーとは、2ページくらいの概略説明書のことです。
全ての企業が、まずここでふるいにかけられます。
ええ、すこぶるふるわれます。僕も過去、何度ふるわれてきたことか。あー、落ちたー。もちたー。

これが3ページを越えてくると逆に無視される可能性がありますので、なるべく手短に、要領のみを積み込みます。

こちらのVCに働く人々は、長いエグゼクティブサマリーを見るという概念がありません。「見ない」とか、「見れない」とかではなく、そもそも概念がありません。
彼らの中では、「エグゼクティブサマリーとは、こういう内容で2ページ以内に終わっているものだ」という前提があります。なので、前提枚数を超えたり、記載内容が前提と違ってしまうと、完全に受け付けないというわけではないのですが、その時点でポイントがマイナスになってしまう可能性があるのです。

ということで、エグゼクティブサマリーは、

  1. 2ページ以内に
  2. 入れるべき情報を整理して
  3. 目につくような書き方で

上記に気をつけて作成する必要があります。

ちなみに僕は過去、サマリーなのに10ページというビジネスプランとたいして変わらない容量をにこやかに提出し、「読む気がシマァセ~ン(外人風)」と怒られたことがあります。ですので、ここはしこたま気をつけてください。

どのような内容を入れるべきか?についてはまた後日。

  • Business Plan
次は、ビジネスプランです。
エグゼクティブサマリー審査を突破できた企業のみが、ビジネスプランを読んでもらえることになります。

基本的にこちらの人々は、テンプレートが好きであり、その型にハマらないものは嫌われる傾向にあるのですが、エグゼクティブサマリーに続いて、ビジネスプランにも型はあります。
内容はまた後日記載しますが、「12 Magic Slides」というのがそれにあたります。その名の通り、12枚でプランを説明します。それ以外の付属情報は、全てAppendixとして切り離しておきます。
ビジネスプラン作成の注意ポイントは、「スライドが長すぎない・文字を詰めすぎない・説明はポイントのみ」です。
時間については、20~30分以内で一通り説明できるものがいいでしょう。

いずれにせよビジネスプランにおいては、短時間で簡潔に説明でき、かつ現実的であり、相手の心を引き付けられるものでなければなりません。
誰しも自分の製品については誰よりも愛しているでしょうし、いろいろな付属アイデアもあります。製品への思い入れも中途半端なものではありません。
なので、そんな短時間で説明できるか!何が分かるのか!となるかも知れません。そしてそれは僕も全く同じです。

ですが、インベスター側の視点で見れば、新しいアイデアは毎日洪水のようにやってきます。もしも自分がその立場ならば、毎日こなさなければならないビジネスプランのデューデリジェンスやミーティングの中で、何かしらの基準をクリアした案件のみしか物理的にもその後を追うことはできないでしょう。

その基準とは何なのか?ということを特に創業者は、客観的な視点から事前に知っておく必要があります。

ちなみに僕は過去、50ページにも及ぶ自分よがりな大作を持ち込み、「1ページ目だけ見たケドもう飽きマシタァ~(フランス人風)」と怒られたことがあります。ですので、ここもしこたま注意が必要です。

ビジネスプランに詰め込むべき内容についても詳細はまた後日書いていきます。

  • Elevator Pitch
エレベーターピッチとは、読んで字のごとく、エレベーターに乗ってから降りるまでの約30秒くらいの間にいかに話をまとめて相手に伝えられるか、という技術のことです。

個人的にはこういうのは嫌いなのですが、プレゼンの場においては持っておくと重宝します。というか、キッチリ格好良くまとまれば、「お、この人、なかなかデキそうな人だな」という印象を相手に与えることができます。

エレベータピッチについては、以下の三種類を用意しておくといいでしょう。この三点を簡潔に30秒くらいで話せる練習をしておくと何かと役に立ちます。
  1. 自己紹介
  2. 会社概要.1 (何をしているか、マーケット概要、顧客概要、今の問題点、問題に対するソリューション)
  3. 会社概要.2 (ソリューションの市場規模、競合状況、他社との違い、なぜ競合に勝てるのかという理由)
ちなみに僕は過去(もういいって)、英語がまるで分からなくて、1.の自己紹介時に、「マイ・・・マイ・・マイ・・ママイマ・・アイネムイズ○○」みたいに、ほぼジミー大西化してしまったことがあります。ですので、自己紹介くらいは訓練しておきましょう。

余計な情報も幾分入ってしまいましたが、下準備としては、
  • Executive Summary
  • Business Plan
  • Elevator Pitch
上記三点のみです。

次回以降は、実際の調理方法について解説しますので、調理道具は各自用意しておいて下さいまし。

2007/11/15

企業買収のコスト

僕がBloggerでブログを書くようになったのは最近ですが、昔はMovable typeも使っていたことがあります。
しかし、新しいブログというのは新しい機能もあり、やっぱり楽しいせいか、仕事が忙しくても日々更新しようとする力が働く不思議よ。。。

引き続き、昨日のカンファレンスに関わる内容で、今日は買収時にかかるコスト面のことを書いていきたいと思います。


  • VCのコスト
シリーズAが終わっているようなスタートアップの場合、その契約書の中に1xや3x等の保証契約内容事項が記載されています。
これは何かと言うと、買収ディールがクローズした際に、投資額に対してまずは1xなり3xなりをVCに戻します、という合意内容のことです。
例えば、シリーズAで2ミリオンドルの投資があった場合は、1xの場合はそのまま2ミリオンドルを戻し、3xの場合は6ミリオンドルを先に戻す、ということになります。
(1ミリオンドル = 100万ドルです。円だと110円で1億1千万円ナリ)

さらにそれとは別に、彼らの保有するシェアの取り分もあり、そう考えるとVCに対するコストというのはやはり高めという認識を持っておいた方がいいでしょう。エクスペンスィィブー!!

ちなみに昨日の話題でも出ていたのですが、現在、1x以上を取るシリコンバレーのVCというのはもういないようです。
さすがに3xというのはエゲツないだろ、ということでバブル期以降は1xがスタンダードになっているとのこと。また、僕の会社もシリーズAに向け、いくつかの現地VCと話を進めていますが、1x以上を提示するVCはこれまでの所、存在していません。
昔は3xが割と普通だったので、以前と比べると、ここはやさしくなった部分なのかも知れません。

  • バンカーのコスト
会社を売りに行く場合は、ディールの大きさによるものの、インベストメントバンク(投資銀行)経由が多いようでした。
インベストメントバンクと聞くと、何となく100ミリオンドルを越えるような大きいディールしか手がけないのではないかというイメージがあったけど、こちらのバンカー達は大手でも50ミリオンドル前後くらいのディールから手がけるようであります。

ちなみにそれ以下の小さいディールを取り扱うのは、どちらかと言うと彼らではなく、専門エージェントの範疇になるようです。特にシリコンバレー界隈では、20~30ミリオンドルくらいのスタートアップ企業のディールも多いわけですが、これら小規模ディールに関しては、それ専門に扱うエージェント経由で買収交渉を行うことが多いとのこと。

バンカーに対するコストですが、基本的には買収額に関わらずミニマムチャージが2~3ミリオンドルで、買収成立時には全体の買収額に対して1%くらいの成功報酬チャージがあるようです。
100ミリオンドルで買収が成功したとすれば、まず2~3ミリオンドルを支払い、さらに合計額の1%にあたる1ミリオンドルを成功報酬として支払う、という流れになります。

ただ、インベストメントバンクに関しては、何をやっているのかよく分からない、外から見えにくい、何も生み出していないのに多額の中間マージンを抜きやがって!という理由から、正直嫌っている人もいるようです。
買収側も、インベストメントバンクが入ると価格の吊り上げ競争が起こってしまうので、あまりいい顔はしないらしく、彼らが存在することにHesitateする買収企業もあるようです。

これらネガティブなイメージを持つインベストメントバンク達ですが、バンカー自ら語っていた彼らの存在理由としては、

1. 戦略的に可能性のある企業の多くと話をするので、普通に交渉を行うよりも高値でまとまる
2. 既に経験を積んだ人間がやることでスムーズな交渉が可能となる
3. 経験を積んだ弁護士がいるので、その後の問題が起こりにくい

というようなことを言っていました。
買収ディールをクローズする際には、タフなネゴシエーションや煩雑なペーパーワーク、複雑な法律関係も関わるため、特にスタートアップ企業が会社を売る場合はインベストメントバンクを積極活用した方がいいよ!きっといいよ!というアピール付でしたが、専門人員のいないスタートアップ企業の場合は確かに一理ある話だと思います。

ちなみに、買収ディールについては基本的に社内で5~6人+弁護士でチームを組んで作業にあたるようで、ディールクローズまでの平均的な期間としては2ヶ月~半年くらいという話でした。

  • 弁護士のコスト
買収ディールをクローズさせるためには、必ず弁護士が必要になります。
もちろん先方にも弁護士がいるでしょうが、発生する契約関係を全て緻密にスクリーニングし、不利となる箇所は指摘してネゴしなければなりません。

これら弁護士にかかる費用というのもバカにならないのですが、ディールによって費用がかなり変動するため、コレといった数字は出てきませんでしたが、実際に弁護士に聞いた所によると、小さくてスムーズなディールで10~20万ドル前後、大きくて煩雑なディールの場合は、1ミリオンドルを越えてしまうこともあるようです。

バブル時は、それに追加して普通に2~3%のストックオプションも要求してたので、そういう時代に比べると今はまだマシかも知れません。

  • Escrow
普通、買収ディールを行う際には、契約内容に約10%で1年間期限付のEscrowを含んだ内容が提示されます。(%は企業によって変動あると思われます)
これは、買収金額の10%を買収側が1年間プールしておきますよ、何かあった場合はここから引きますよ、という内容で、何もなければ1年後に返還されるものですが、アメリカでお金持ちの大企業がスタートアップ企業を買収すると、すぐにパテント侵害訴訟であるとか、その他権利関係の訴訟が起こされるため、全然戻ってこなかった・・・(涙)という話も実際に聞くことがあります。

ちなみに、GoogleがYouTubeを買収した際は、明らかに著作権侵害訴訟が将来起こるであろうことが予想されていたため、かなりの額をEscrowされていたようです。

  • 引越しのコスト
意外な盲点かも知れませんが、社員が買収企業の本社へ勤務することが条件とされる場合もあります。
この場合、お互いが近ければしばらくの間はゴマカシつつ、オフィスの契約期間終了まで持っていくという戦法も使えるのかも知れませんが、州をまたぐような移動が必要な場合は、それまで利用していたオフィスへ契約期間の残り分を一括で支払う義務が生じる場合もあります。

仮にオフィスの賃貸料が月1万ドルであり、残りの契約期間が10ヶ月あれば、それだけで10万ドルを無意味に支出することとなります。

  • トータルのコスト
こう考えると、Acquisitionされたからといって、トータルで創業者や社員にどれくらいの分け前を与えられるかという部分が少々不明瞭となります。

仮に、1xで3ミリオンドル、シェア30%でシリーズA終了後、バンカーを入れて少々複雑なディールを50ミリオンドルでクローズした場合を仮定すると、

1. VCの1x分コスト = 3ミリオンドル
2. バンカーのミニマムコスト = 3ミリオンドル
3. Escrow = 5ミリオンドル
4. Lawyerコスト = 1ミリオンドル

その他、引越し等細々としたコストもあるでしょうが、とりあえず上記合計、12ミリオンドルがいきなり消え、残り38ミリオンドルからスタートです、ということになります。全体の24%がコストとしてここでサヨナラ。

そして次に、以下のように割り振りがされます。

1. VCやその他優先株取り分 (30%) = 11.4ミリオンドル
2. バンカーの成功報酬 (1%) = 0.38ミリオンドル
3. 創業者株, ストックオプション等の取り分 = 26.22ミリオンドル

3.のところで、やっと創業者や社員が分け前を頂戴できるいうことになるわけです。
ですので、仮に自分が2%の株を持っているからといって、「50ミリオンドルで会社が売れた!俺の取り分1ミリオンドルだ!」ということにはならない、ということを予め理解しておいた方が良いということになります。

また、こう考えると、既にシリーズAを完了させたスタートアップ企業が、仮に10ミリオンドルくらいのディールをクローズさせた所で、何か誰も儲かってなさそう・・・という感触も何となく分かると思います。
シリーズCくらいまで行ってしまうと、仮に50ミリオンくらいのディールをクローズさせた所で似たような感じかも知れません。

最後に、買収時のオプションとして現金買収の場合と株式交換の場合があります。この辺も結構面白いところなのですが、またいつか書きます。

もう寝る。

2007/11/14

Being bought is better than being sold!

今日の夜は表題のようなカンファレンスに出席していました。

「売るよりも買われる方がいい」という内容です。
一瞬、「何を?」と思われる方もいるかも知れませんが、会社の話であります。


今日のカンファレンスは実績のある弁護士やバンカー、そして過去に自身の興したスタートアップを何回かAcquisitionさせることに成功したアントレプレナーが、現在のシリコンバレースタートアップ企業のAcquisition戦略についての状況を、実例を交えながら説明していたので、かなり面白いものがありました。

現在のシリコンバレーにおけるスタートアップ企業は、「会社を買われる」というExit戦略を取っている所が一番多く、また実際に僕の会社もIPOまで行くための戦略より、Acquisitionされるための戦略に重きを置いています。

  • どういう会社が買われやすいか?
買収と一口に言っても様々な理由がありますが、特に多いのは、「単純に特定のハードやサービスをEnrichするもの」ということでした。

買収側の製品をさらに売るためのエサという位置づけのため、現在の製品やサービスに対するユーザー数が多い、少ないということはあまり関係がなく、いかに大手企業の今持っている製品やサービスと関連づけられるか、という部分が勝負所となります。また、それらの多くは、大手が買収後は主力製品に同梱されて一気にバラまかれる、または主力サービスの重要な一部機能を担う役割になることが多いようです。

例えば、GoogleのKeyhole買収は、「新しい市場を開拓するための買収」として位置づけられるものであると思いますが、AmazonのBrilliance Audio買収などは、どちらかというと「既存のサービスをEnrichさせる」ものでした。
そして、このような買収例はユーザー数がたくさんいるようなWeb2.0企業の買収劇と比較すると、たいへん地味な扱いになりがちなのですが、扱う数そのものとしては最も多く、当地でのAcquisition例の多くを担っているようでした。

  • 日本との比較
日本の場合は、大手企業が自社製品内で使えるものを開発しているスタートアップをすぐに買収するということはなく、売り込みに行くとそのほとんどが、「独占契約で」という話につながっていきます。

しかも、すぐに対価を支払ってくれるといいのですが、「上層部を説得するために、ここを無償でもう少しこうして欲しい」であるとか、「無償で共同実験に参加して欲しい」ということを言い出される例が多くあります。

もっとひどい場合は、技術の詳細まで話を突っ込んでおいて、ある日突然同じものを作られることがあったり、さらにはパートナー企業内のエンジニアがスタートアップ側から持ち込まれた技術に対して突如奮起し始め、「自分達でできるから買うな」と社内噴火を起こしてしまい、結局採用ならずという例もあります。(自社内のエンジニア奮起のためだけにアテ馬にされたという悲しいスタートアップもたまにありますが・・)

もちろんスタートアップ企業は大手企業と違って資本力のない会社がほとんどであり、パートナー側の社内政治や手弁当に付き合わされるとすぐに息切れすることになるため、通常は、「開発費を支払ってくれ」という交渉を始めるのですが、結局ワークショップフィーくらいしか支払われず、かといって他をイチから周る体力もなく、結果としてExclusiveで細く長く付き合わされるハメとなるわけです。

こうなるともう新技術を軸に新たな世界を切り開くスタートアップではなく、完全に下請け会社的な存在といえましょう。

もちろん、スタートアップ側にも問題はあって、「自分の会社はこんな大企業と付き合っている」ということを言いたいがために、なぜかたいして得にならないことを一生懸命にやっている場合も多々あります。
それならそこの社員になればいいのに、とも思いますが、そういった行動を起こすスタートアップが地味に多いということも、大手企業側の「ウチと付き合っていることが一つの財産になるわけだから、お金を払わなくてもいいよね?」という勘違いを生んでいる一因となっているわけです。

シリコンバレーに目を向けると、良い製品やサービスを生み出す優秀な頭脳は引く手あまたであり、大手企業は「その技術を独占的に使わせて欲しい」などという寝言は言いません。「独占的でなければ売る気がしない」ということは言いません。(昔は言ってたけど・・)
独占したい場合、企業ごと買収するのが筋として認識されているためです。

そのため、スタートアップ側も最終的に自社ごとパートナー企業等に買ってもらうというM&Aが自然と身についており、またそういう頭脳をちゃんと評価して買収できる企業には、結果としてあらゆる優秀な頭脳や競争力のある製品が集まる形になっているわけです。

また、それら買収した資産も将来的に新たな競争力となって企業に利益をもたらすわけですから、買う方も買われる方も対等な関係で存在できるという風土がシリコンバレーにはあります。

今の日本はまだ大企業信仰、年収信仰が揺らぐことはないように見えるものの、将来的に日本でもシリコンバレーのように、優秀な頭脳ほどスタートアップを起こす世の中となり、受け皿としてIPO以外に海外企業へのExitの道も開けるようになれば、日本企業には結果として二流三流の人材しか集まらなくなってしまうのではないかとすら感じます。

「日本の○○会社はヤバイぞ、細く長くExclusiveだぞ、近づくな!」みたいな噂が出てしまうと、誰もそこの会社に行きたがらなくなるでしょうし、ネットほどこういう噂の伝達速度が速い媒体もありません。

実際にシリコンバレーでは、VCを評価するサイトのTheFunded.comを見て、ひどい評価の所には近寄らないというスタートアップも散見されるようになってきているので、それがそのままM&A企業版になると、すぐにいろいろなことが明らかになる時代になってしまうわけです。

とにかく、こういった情報の流れに対しては、組織よりも個人の方が敏感であることを理解しておく必要があります。

話が長くなってしまいますた。
続きはまた次回。

自己紹介

今日からここでブログを書き始めたいと思います。

僕は、現在シリコンバレーのテクノロジー系スタートアップ企業で働いています。

2001年から3年間ほど、テック系スタートアップをシリコンバレーで創業して働いていましたが、一回目はVCから資金調達をするまで行き、従業員が30名くらいまで成長するも道半ばで解雇され、帰国。その後しばしの日本生活を経て、また2005年より当地でテック系スタートアップを創業、在米中という放浪癖を持つスナイパーです。(好物はカツ丼)

ソフトウェア業に従事してから、もう干支が一周りちょいくらいになりますので、立派な中堅というあたりでしょうか。

アメリカ生活についてはハンバーグ好きなため、そんなに苦ではありません。
In-Outとかサイコー!イエー!マックもそこそこ!イエー!

仕事のことを言うと、

  • チャレンジングに、世の中にインパクトを与えられるような素敵なプロダクトを生み出す
  • でもクビにならないように細々と頑張る

それが現在の目標です。

ではこれからよろしくお願いいたします。

もう寝る。